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謹賀新年。新しい年が始まった。故郷に帰り、懐かしい田舎料理や雑煮を前に舌鼓を打っている人も多い事だろう。ところで、この「雑煮」ほど全国津々浦々で食べられていながらも、地域によって大きな違いがある料理も珍しいのではないだろうか。餅の形から、ダシのとり方、つゆのタイプ、具の種類や品数にいたるまで実に様々。中には餅を入れないものや、ぜんざいのように甘い雑煮もあるらしい。
雑煮とは、もともと大みそかの夜に年神様に供えた海や山の幸を、元旦の朝に年男が汲んだ若水で煮て食べるという習慣から始まったという。特に、西日本の丸餅は、新しい年の魂を表し、年神様から生命力を授かるのだそうだ。雑煮にはその地の自然や神様の恵みに感謝する気持ちも込められているのだろう。だからこそ、それぞれの土地柄が反映され、特色ある雑煮が伝わっているのではないだろうか。
そんな「雑煮」の地域性の違いを実感したのは、数年前、島根県石見地方で迎えた初めての正月だった。九州出身の私にとって、雑煮といえば、海老や鶏にカマボコなど、具だくさんのイメージがあったのだが、こちらで出会った雑煮は、なんとすまし汁の中に丸餅だけ。具は入っておらず、削り節や岩海苔が上に乗っているという実にシンプルなものだった。がっかりすると同時に、失礼にも、ここは貧しい土地柄だったのだろうなどと勝手な解釈をしたものだった。石見出身のある女性から「結婚相手の出身地がゴージャスな雑煮のところだといいな」と笑い話で聞かされたことがあったが、さもありなんとうなずいた。
しかし、ところがどっこい、何度目かの正月を迎える頃、そんな石見の雑煮の偉大さに気がついた。徹底してシンプルだからこそ、豪華な正月料理との相性がよく、居並ぶご馳走の彩りや味わいをひきたててくれる。余計な具がないので、汁の風味や餅の旨みが生きている。それもそのはず、作り方を習えば、ダシは江の川の焼き鮎でとり、岩海苔は潮の香りもほのかに香る日本海もの。質素どころか、なんとも贅沢な雑煮であった。さらに、おせちの中から黒豆やカマボコなどを自分の好みでトッピングできるという楽しみまである。実に合理的というか、完成度の高い雑煮だと舌を巻いた。考えてみれば、魚介や野菜は、既におせちの中に入っている。同様のものを雑煮に入れることもないのかもしれない。一見、素朴で目立たないが、実はこだわり本格派。十分に個性的でありながらも、他をひきたてるという自らの役割に徹している。まるで、食卓全体の調和を狙っているかのようだ。ここにも石見の風土と気質を垣間見たような気がした。
さて、新年を迎えそんな一杯の雑煮と共に新たな生命力をいただきつつ、その幸せをかみしめているところだが、遠く世界を見渡せば、何ともせつない話題ばかり。どうか、この一年が世界中のすべての人々にとって平和で幸多きものとなるよう願ってやまない。互いを理解しひきたてあう、この石見の雑煮のごとく「和をもって貴しとなす」といきたいものである。
日時: 2007年02月09日 15:37
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