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津和野を中心に、島根県の西部に伝わる郷土料理「うずめ飯」。一見すると白いご飯が丼に盛られただけの質素なメニューだが、その下には、ワサビや山菜、旬の野菜などが出汁と共にうずめられている。これはその昔、贅沢を嫌った津和野城主の目を気にしての事ともいわれているが、隠すものがあるほど豊かな地でもあったのだろう。
同じようなメニューに「角寿司」がある。木枠に酢飯をつめこんで、中に椎茸や野菜の煮物などを入れて作るのだが、外から見ると、こちらもただの四角の酢飯。まさに「角寿司、かくすし、隠すし‥」。なんて駄洒落を思いながらも、東京からIターンしてきた私には「なんと石見の人々の奥ゆかしさ」と映ったものだった。
隠したり、うずめているのは料理だけではなかった。
よそ者の私が、この地で感動したものに石見神楽がある。地元のおじさんやおじいさんが、ひとたび神楽となると、上手に笛を吹き、太鼓を叩き、舞を舞い、神楽歌をうたう。神楽殿には天蓋を張り、器用に幣や鬼棒を作る。当日にはお供えの準備からその夜ふるまう料理まで作ってしまう。
私にはその光景が、普通の人々が突如、かっこいいアーティストやミュージシャンに、またアクターやプロデューサーに、はてはシェフにまでと、一人で何役にも変身していくかのように見えた。しかも、それは一部の人ではない。子供たちまで、学校帰りにランドセルをしょって神楽笛を吹く。まるで笛吹き童子だ。そして、何より当人たちは、その事を少しも特別な事とは思っていない。まさに今を生きている伝統芸能と呼ばれる所以だろう。
石見という地は、このように、わくわくするような宝を身の内にうずめ、隠し持っているのだと思う。
そういえば十七世紀初めには、日本は全世界の銀産出量の1/3を占め、その大部分が石見銀山の銀だったという。多くの宝をうずめ、隠していたこの土地。その産土(うぶすな)力は今もこの地に脈々と流れている。
とはいえ、島根県石見地方といえば、全国でも有数の過疎と少子高齢化の地。厳しい経済状況下、地方の自立が課題となり、この田舎を都市部のお荷物のように言う人もある。
しかし私は「石見神楽」や「うずめ飯」、「角寿司」に触れるたび、この地の奥底に眠るパワーと可能性を感じずにはいられない。そして心ひそかにつぶやいている。「大どんでん返しが待ってるぜ!」と。
日時: 2007年02月03日 15:07
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